bitter sweet
「お前、イヴにライブやるって事は彼女おらんの?」

「いや……おらんわけではないけど、今はおらん……かな」

 歯切れの悪い答えになったのを気にすることもなく、健ちゃんは目を輝かせ、こう言った。

「ほんなら、知り合い一人紹介したるわ! オレ、あと30分くらいでバイトあがりやねんけど、これからそいつと連れで飲みに行くねん。和紗、一緒に行かへんか?」

 ……なんや健ちゃん、すっかり今時のチャラ男みたいんなったな。

「あ~……、ごめんけど、俺これからバイトやねん」

「そっか~……、残念やな。ほんなら和紗、ケー番とメルアド教えてくれ」

 別に断る理由もなかったし、快く健ちゃんの申し出に応え、俺はバイト先へと急いだ。

 年月が人を変えるんかな、健ちゃん、昔はめっちゃ硬派やったのに……。

「……それ言うたら俺も、か」

 転校前の中学校ではヤンチャしすぎて、勘当同然で親父の弟(俺からみたら叔父さん)に預けられた。

 この街に来たくて来たんちゃうかったけど、いい事がなんもなかったわけとちゃう。

「……アイツ、約束覚えてるんかな」

 14歳の冬――“天使”が俺を変えたんや。


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