bitter sweet
 捨て台詞を吐き、勢い良く書斎のドアを開け、自分の部屋へと向かう。

 ボストンバッグにありったけの服を強引に詰め込む。不意に誰かがドアをノックした。

「和紗……」

「…………」

 振り返らんでも声でわかる。――お袋や。

「和……あんた行くんか?」

「……俺がおったら困るんやと! ちょうど家出しよう思てた所やったから都合エエわ」

 精一杯の強がり。こん時の俺、ホンマは止めてくれるんを期待しとった。

「あんた、行くにしてもお金も持ってへんのやろ? コレ持って行き。無一文でどないするつもりやったん」

 しかし俺の淡い期待は、お袋から渡された茶封筒によりあっさり崩された。

「交通費と、叔父さんへの手紙入れとくから、ちゃんと挨拶するんやで? お父さんも今は怒ってはっても、冷静になったら“帰って来い”ってきっと言うてくれはるよ」

「……あの親父がそんなん言うと思えんけど」

 まあ、くれるモンは貰(もろ)とこ。あって困る事ないしな。

 ぎゅうぎゅうに詰め込まれたボストンバッグにギターケース、上着のポケットに入るだけのMDを突っ込み、俺は14年間住み慣れた街を出た――。




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