bitter sweet
 言った後で、しまった!と思ったけれど、後のまつり。唯はその事を知らないのだ。

「ゆ、唯……あのね」

「……何それ? あたしそんな話聞いた事ない!!」

 私が知る限りの唯は、とにかく曲がった事が嫌いな人。だから今日までずっと、中学時代の事を聞かれても誤魔化し続けていた。

「……ゆきな」

 ……明らかにさっきとは声のトーンが低い。

「…………はい」

「本当の事話しなさい。あたしに隠し事は許さないよッ!」

「…………」

 うぅ……やっぱり怒ってる……。

 ……形勢逆転。こうなってしまうと、唯は誰にも止められない。

「あの……でももう5年も前の話……やよ?」

「いいから話しなさい!」

 ぴしゃり、と言い切られた私は観念して話し始める――。

 14歳の秋――父親が本社勤務になり母親とこの街にやってきた。

 辛い記憶とともに、胸の奥に閉じ込めていた大切な“彼”への想いが蘇る――。



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