bitter sweet
 ――和紗。昔はこの女みたいな名前のせいでよく喧嘩したもんやった。

 けど、今の俺はもうそんな事では怒らへんくなった。なにより、名前覚えてもらえるチャンスやしな。

 俺はおっさんに丁寧に挨拶をして、その店を出た。

「さぶ……ッ!!」

 今年は暖冬やゆうてもやっぱ12月も半ば過ぎると、吹きすさぶ風が冷たい。

 街はクリスマスカラーで飾られたディスプレイで溢れている。

 上着のポケットから駅前周辺のCDショップのリストを書いた紙を取り出す。

「……っと、あと一ヶ所で駅前制覇……っと」

 “ポーラスター”?
 なんやCDショップらしくない名前やな……。

「……っじゃ、行きますかッ!!」

 誰に言うわけでなく、自分への気合いでつぶやく。

 はよ行かな、バイト間に合えへんなるしな。

 俺はクリスマス前の浮き足だった人波を、急ぎ足でうまい具合にすり抜けてった。



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