bitter sweet
「和……紗」

 涙が溢れ、零れ落ちる。和紗だ……和紗だッ!

 走り出したい気持ちと裏腹に、足が凍りついてしまったかのように前に進めない。

 和紗の前で曲を聞いている2人組の女の子の一人が私に気付くと、演奏中の和紗に話し掛ける。

 女の子が私を指差し、興奮している。ギターの音が止み、こっちを向いた和紗の口が「雪和……」と形作る。

 涙で滲む視界の中、和紗がギターを置いて、私に向かって歩いてくる。

「雪和……か? 久しぶり……ってか、なんやあの……き、綺麗ンなったな」

 久しぶりに聞いた和紗の声。会えたらまず何から話そうとか、考えていた言葉も何も出てこない――。







「きゃ~、ドラマみたいッ!」

 言葉より先に、目の前の和紗に抱き付いた私の行動に、女の子たちが声をあげた。

「和……紗ッ、和紗ッ! かず……ッ」

 和紗に再会して初めて発した言葉を、和紗の唇が奪う。

 5年前の時と同じ……優しくて暖かい唇。

「会いたかった……和紗」

「俺もや……。と、雪和、ちょー待っとってな」

 するっ、と私の腕をほどくとギターをケースに直し、肩に掛けこっちに歩いてくる和紗の後ろを……あの2人が追いかけている。
 それに気付いた和紗は私の手を取ると「雪和ッ、アイツら撒くぞ!」と突然走り出した――。



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