彼-id-SCOUP
プロローグ
いつだったかはよく覚えていない。
ただ、その日見上げた夜空には大輪の星が咲いていて。
誰だったのかな。
その中のひとつを指差して、
「あれがキミの星だよ」
そういったの。
琴座のベガ。
夏の代名詞のひとつ。
そしてわたしの名前の、欠片(かけら)。
「きれいだね、みおちゃん」
その人の顔はよく覚えていない。
もちろん、名前も。
「また、いっしょにみようね」
あどけない約束。
でもわたしはそのとき、頷いて星が一瞬でも視界から外れるのが嫌で。
代わりに、
「…………」
星に向かって――必死に手を伸ばした。
だって、なんだかつかめそうな気がしたから。
もしつかめたら、自分が織姫様になれそうな気がしたから。
織姫様になれたら──
──何かが変わりそうな気がしたから。