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ひとめ惚れなんていうおこがましいものじゃなくって。
純粋な憧れ。
だってわたしは先輩のように誰もを照らせるような輝きなんてないもの。
先輩は名前の通り、煌々と輝く鷲座のアルタイル。
けれどわたしは名前だけ琴座のベガで、実際の所は星を見上げる名もない存在。
織姫に憧れるだけの、ちっぽけな女の子。
「ふぅ……」
ためいき、ひとつ。
うちの親も“美織”だなんて、罪な名前をつけてくれたものだ。
(だから、本が好き)
現実には素敵なお姫様になんてなれないけれど、物語の世界に浸っているときだけは誰よりも輝く主人公になれるから。
八重さんみたいに料理が出来るわけでもなく。
紗智さんのように絵が描けるわけでもなく。
わたしには、何もないから。
(あ、暗い……)
軽く頭を振る。
いけないいけない。
わたしの悪いクセだ。
何もなくても、したいことはある。
それが今は天文学同好会なわけで。
(──うん)
顔を上げると同時に鳴り響く5限終了のベル。
わたしは起立礼が終わると同時に申請書類を机の上に広げて内容をチェックし始めた。
憧れと現実には次元を分かつくらいのすんごい壁がそびえ立っていて。
いつだってわたしたちは現実という場所から必死に壁の向こう側を目指してジャンプしてる。
けれど、結局のところわたしたちが立てる場所は現実しかなくって。
まぁ、世の中そんなものだ。