彼-id-SCOUP

「み~お~」

「んひゃっ!?」

 と、不意に聞きなれたウィスパーヴォイスが耳元に吹きかけられて小さく悲鳴を上げる。

「な、なにするの。天音(あまね)ちゃん!」

「あっはは。ごめんごめん。なんか小難しそうな顔しちゃってるから、つい」

 振り返るとそこには頬にかかる亜麻色のクセっ毛を揺らしながら笑う女の子。

 藤川天音(ふじかわあまね)ちゃん。

 高校に入ってすぐに出来た友人だ。

 どちらかというと人付き合いがあまり得意ではないわたしとは対照的な人懐っこい女の子で、

「例の天文学同好会のこと?」

「うん」

「そっかぁ。てっきり鷲尾センパイのこと考えてたのかと思ってた」

「なっ!?」

「あっは。図星だ」

「ち、違わないけど、違うもん」

 わりと、鋭い。

 あ、そうだ。

「ね、天音ちゃん」

「ん? なになに?」

「白鳥光って、知ってる?」

 交友関係の広い彼女なら何か知ってるかと思い尋ねてみる。

 本当は1秒たりとも思い出したくない相手ではあるけれど。

 ほら。

 屋上のあの場所が特等席だなんていってたから。

 今後屋上で活動する予定のこちらとしてはいずれ“立ち退き”の交渉をしなきゃかもだし。



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