彼-id-SCOUP
天音ちゃんは腕組みをして、
「ふぅん……」
と記憶の中の知り合い名簿をめくると、思い当たったのかぽんっ、と手を打つ。
「思い出した。確かD組にそんな名前の男子がいたはず」
その口ぶりからするとあまり詳しくは知らないみたい。
「みおが鷲尾センパイ以外の男子の名前を口にするなんて珍しいね。どうかした?」
あからさまに瞳をキラキラ輝かせ、興味津々に問いかける天音ちゃん。
う……。
ちょっと後悔。
今さら適当な誤魔化しをしたところで彼女のことだ、即見破るに違いない。
「あのね──」
しかたなくお昼の出来事を話すわたし。
まぁ別に秘密にするようなことでもないし。
場合によっては立ち退き交渉のときに彼女に協力してもらうことになるかもだし。
と、思っていたら、
「…………」
話す内に段々と表情を固まらせていく天音ちゃん。
ただ、それがなんといっていいのか。
眉根をきゅっ、と寄せた怪訝な表情のようでいて口をぽかん、と開けた呆けたような表情でもある。
「な、あ、う……」
かと思えば今度はうつむいて肩をふるふるふる、と。
「天音、ちゃん?」
何かおかしなことでも話したかな。
事実をありのままに話したつもりなんだけ──