彼-id-SCOUP
「は、はいぃぃぃ?」
空手の「押忍!!」みたいに両手のこぶしを甲を下にしてそれを腰につけ天井に向かって叫び声を上げる彼女。
それをまるで、
「いやぁ今日も空がよく晴れてるなぁ」
といった感じに眺めるクラスメイト達。
(あぁ“また”始まっちゃった……)
彼女には困った“クセ”がある。
曰く、
『男と女が目を合わせれば光の速さで恋愛が始まる』
とかで。
つまるところ、爪楊枝で原寸大の金閣寺を建てるくらいの勢いで何かと恋愛話に結び付けてしまうのだ。
鷲尾先輩のことを話したときも、それはもう大変な盛り上がりで(彼女ひとりの脳内で)。
けれどわたしは先輩くらいしかそういう話に発展する機会がなかったから、とりあえずあまり“被害”にあってなかったのだけれど……。
どうやらそれが逆にとんでもない反動になったみたい。
こうなるともう止まらない。
止める術がわたしには、ない。
まぁ誰にもないんだけど。
でもとりあえず、ちょっとだけ、試しに抵抗をしてみる。
「あの、ね? 天音ちゃん。話聞いてた? 恋愛発展とか、ありえない──」
「あぁしまったぁぁぁ!!」
「へぅぃっ!?」
机をドばしんっ、と叩いてうなだれる彼女。
「ど、どうし──」
「白鳥って人の情報が少ない! これじゃシェイクスピアに勝てない!!」
えっと。
それは“妄想力”が働かないってことでいいのかしら?
「みおっ!」
「は、はいっ?」
「すぐ情報集めるから放課後まで待っててね!」
「え? あ、ちょっ」
いうが早いか、あっという間に教室から飛び去っていく天音ちゃん。
走るじゃなくて、本当に飛んでるくらいの勢いで。