彼-id-SCOUP
気を取り直して持っていた書類を差し出したわたしは、
「あの、これ、チェックしていただけますか?」
そういってそれを先輩に手渡した。
「わかりました。じゃあ会議室の方にいきましょうか。そこでチェックしながら足りない部分があれば手直ししていきましょう」
「あ、え、いいんですか? お仕事は……」
空いた時間にでも目を通してもらって、改めて意見を聞きに来ようと思ってたわたし。
ありがたいけれど、でもそれって迷惑じゃないのかな?
すると突然、ものすごく真剣な表情になる先輩。
「琴引さん……」
「は、はい!」
え、え?
急になんだろう?
「実はですね……」
いいつつ今度は空いていた片手を額に当てて、苦悶の表情を浮かべたかと思うと――
「ちょうど今、休憩用のお菓子が1つ余ってまして」
「……は?」
場の雰囲気にまったくそぐわない内容の言葉に思わずかくんっ、と態勢を崩すわたし。
それをみた先輩はいつもと同じ微笑みをにっこり、と浮かべ、
「このままだとそれの争奪戦になってしまうので、出来れば貴女に“協力”していただければ助かるのですが」
たぶん、これは先輩の気遣い。
見え透いているけれど、あえて恩着せがましくいう所がなんともおしゃれ。
「っぷ……あははっ」
「ふふふ」
それはとてもとてもやさしい微笑み。
そう、いつもと変わらぬ微笑み。
自然と出る笑い。
やっぱり先輩は素敵だ。
「じゃぁ、いただきます」
「いやぁ、助かります」