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テスト用紙に書くときとは胸のドキドキ感がまるで違う。
「はい。じゃあ琴引美織(ことびきみおり)さん。返却は2週間後ですね」
そう、“図書貸出カード”に名前を書くその瞬間。
いつだって、わたしはこれから出逢う物語を想って胸を熱くときめかせるのだ。
「ふふふ」
物語は、いい。
だってここではないどこかにほんの少し指を動かすだけで連れて行ってくれる。
そんなときわたしの指はさながら魔法のステッキ。
そして本は、わたしを旅へと誘(いざな)う魔法の切符。
「昨日おこづかいもらったばっかりだし……」
うん。
今日は『トリニティ』に寄っておいしいケーキを買って帰ろう。
旅に“お供”は欠かせないもの。
夜更かしは乙女の天敵だけど。
“危険を冒す”からこそ、人はそれを“冒険”と呼ぶのだ。
まぁもっとも。
1番怖いのはお母さんの、
「明日も学校でしょ」
の魔法なんだけど。
“お布団の中でこっそり読書”の魔法も、3回に1回は失敗してしまう。
やっぱり高校1年と主婦十数年とではレベルが違うってことなのかな。
ま、それはそれとして。
本日の切符を丁寧に鞄にしまう。
そして、
「今日のオススメはなにかなぁ~」
毎度極上のスウィーツを提供してくれる『トリニティ』のショーケースを思い浮かべて、
「ふんふん~ふ~ん」
わたしは雲に鼻歌を聴かせながら図書館を後にするのだった。