彼-id-SCOUP
そうそう。
キューブバウム。
実はこれがショーケースに列んでいると、それは紗智さんがいらしたという証拠。
それというのも彼女は大のバウムクーヘン好きで。
それはもう様々なところで目にする公式プロフィールに、ことごとく、
『血液型:バウムクーヘン』
と書いてしまうくらい。
そういうところも好きなんだけど、ね。
で、紗智さん。
八重さんのためにお店に飾る絵をいつも持ってくるらしいのだけれど。
その代金として八重さん特製のバウムクーヘンをいつも持って帰るのだそうな。
ただし、あくまでも“お店の商品”を分けて欲しいとのこと。
「自分の絵も、私のためであると同時にお店のためのものでもあるから、なんですって。律儀でしょ?」
そういって楽しげに笑う八重さんも、それに付き合うあたり、十分律儀だと思う。
でもきっと、変に遠慮したり申し訳なく思ったりしないようにっていうお互いへの配慮なんだろうな。
なんだかそういう関係って素敵だよね。
うん。
「あ~また逢えなかったぁぁぁ……」
「紗智ちゃんも主人と同じで思い立ったら即行動なタイプだから。来る当日の朝じゃないと連絡がないのよねぇ」
とまぁ、わたしがさっきキューブバウムに目ざとく反応したのはそういうわけなのだ。
あぁそれにしても残念。
このお店に出逢って早3月は経とうとしてるのに、未だに逢えないだなんて。
「うぅ……」
関節が外れたのかというほどがっくりと肩を落とすわたしに、
「でも美織ちゃんのこと話したら1度会ってみたいっていってたのよ?」
「ほ、ほんとですか!?」
「えぇ。ただこれも主人と一緒で作品が中心の生活してるから。行動が予測不能なのよね」
「そっか。そうですよねぇ」
じゃぁやっぱり運命を信じるしかない、か。
それにこの場所に出逢えた時点でものすごい奇跡なんだもの。
待つくらい、ね。
そのくらいはガマンしなきゃ罰が当たっちゃう。