人の恋を笑うな
土曜日、社長が電車でうちにやってきた


『電車なんて珍しいですね』


『車車検に出してきたんだ。しばらく電車通勤だな』


私はさっそく鍋の用意をした。今日は桜川家お得意、つくね鍋である。つくねの作り方は夏子に教わった


『社長、私料理下手だけど鍋は得意なんですよ。実家では冬は毎日鍋ですから』


『一番いいじゃないか。俺は夏でも鍋は食べるよ』


『よかった』と私は鍋を簡易コンロの上にのせた


『このつくねは夏子秘伝なんです。教えてもらいました。ビール持ってきますね』


『美味しい。さすがだな。ダシもいい感じだ』


『薄くないですか?』


『これでいい。すぐに濃くなるから』と社長はビールを開けた


『今度は隼人さんも呼んで鍋しましょうか?』


『そうだな。ああ、乙女。隼人の奴、今年中に夏子ちゃんを嫁さんにもらいに挨拶いくらしいぞ』


『やっぱり。夏子はいつでもって感じでした。今年は3月に友達が結婚するし、茂徳さえうまくいけばいい年になりますね』


『乙女は…結婚早くしたいか?』


『こだわらないです。こうやって一緒にいる時間も大事ですから…』


『俺はいつでも…といいたいが、3月から忙しくなる。お前も気付いていると思うが、大阪のスタジオがあのビルに入ることになった

大阪のスタジオの家賃削減もあるが、雑誌の売上部数伸ばすなら東京にきたほうがいい

その方向に考えてる。だから乙女も忙しくなるかもしれない。でも俺の見込んだ女だ、頑張ってくれるか?』


『頼りないパートナーだけど精一杯やります』


『俺にとってはプライベートでも大事なパートナーだからな…』と社長は笑った


この時のキスはつくねとビールの味がした
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