新しい歌
【プロローグ】
まるでなっていなかった。
思い切りミキサーを通して声を増幅させ、それで多少はごまかしてはいるが、こんなものを聴かされて金を払ってまでCDを買う人間の気が知れない。
スリーテイクで録音は終わった。
やれやれだ。これ以上付き合わされていたら、多分私はギターを放り出してスタジオを出て行っていたかも知れない。
ガラスで仕切られたモニター室の向うから、プロデューサーの浅倉がニコニコしながらOKサインを出す。
それを見たRUIがヘッドフォンを外し、脳天気にもピースサインをした。
スピーカーを通して、浅倉の機嫌良さ気な「お疲れ様」がスタジオ内に流れた。
RUIのマネージャーとプロダクションのスタッフが、彼女におべんちゃらを言いながらスタジオに入って来た。
「じゃあ、この後に撮影の打ち合わせが入っていますので、これで失礼させて頂きます」
彼女のマネージャーが浅倉に向って頭を下げた。
RUIはと見ると、スター然として自分の取り巻き達に囲まれながら、既に扉の向うに消えようとしていた。
確かに彼女はスターだ。傍から見ていても、輝き方が違う。人はそれをオーラとでも言うのだろう。
だが、彼女はミュージシャンではない。それとこれとでは話が別だ。
そこそこ歌える。ただそれだけだ。尤も、昔のアイドルと呼ばれていた歌手達は、もっと酷かったが。
私もすぐにスタジオを出ようと思い、ギターの弦を緩めるのももどかしく、さっさとケースにしまい込んだ。
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