新しい歌

「風間さんは、恋愛に真面目過ぎるのよ」

「俺が?」

 深海魚の女房の言い方に、隣の浅倉もカウンターの中の旦那も不思議そうな顔をして、話の続きを待った。

「三度も結婚を失敗している俺に相応しい言葉とも思えないが」

「あのね、恋愛に真面目すぎるから、すぐに結婚をって考えになるんじゃない。一旦好きになったら、この女を俺は一生面倒見なきゃって、力み過ぎちゃうのかも」

「ものは言いようってやつか……」

「このフーさんが恋愛に真面目、ですか……」

「あら、少なくともダイちゃんよりかは、ずっと真面目だと思うわよ。うちの人にしてもそうだけど、恋愛イコール結婚なんていう思いに今までなった事ある?」

「うんんん、そう言われると返す言葉が無い。もし恋愛の度に結婚していたら、十回は婚姻届を出していたかも」

「その中にキャバクラのお姉ちゃんは何人入っているんだ」

「マスターまでひどい事を言うなあ。今は俺の事じゃなくて、フーさんの事を話しているのに」

「風間、俺はお前と長い付き合いだから、何と無く気持ちが判らなくもない。けどな、なっちゃんの気持ちをきちんと考えた事があるか。あの子がお前を必要としている気持ちを」

 深海魚は、時として真実を吐いてくる。




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