新しい歌
「並みの歌い手じゃやばいな」
深海魚がぼそっと呟くと、
「あの子だからここまでにしたんだ」
と心也が答えた。
「レイなら大丈夫さ。それより俺達だな。ツカ、この厚みに負けないドラムを頼むぜ」
「それを言うなら風間、サックスをぶちのめすようなギターじゃないと」
「俺は高見の見物とするか」
「創り逃げかよシン」
「ねえねえ、みんなぼくを放っとくなんてずるいよ。ぼくのこともちゃんと言ってよ」
「レイは大丈夫だ」
「ようすけ、無責任過ぎるぞ。ぼく、まだあの部分が納得いかないんだ。ちゃんと教えろ」
「相変わらず口が悪いな。初めて会った時はもっとお淑やかなはずだったがな」
「こうなったのは、ようすけのせいだもん。責任取って」
私達のやり取りを那津子が微笑みながら見つめていた。
私が那津子の方へ視線を向けると、彼女は軽く頷き声を出さずに口を
だいじょうぶ
と動かした。
那津子の伝えたかった「大丈夫」には、私の窺い知れない程多くの大丈夫が込められているのだろう。