新しい歌
八月最後の日曜日。
『NEXT ONE』の収録の為、私達はお台場の放送局へ向った。
リハーサルの一時間前に控え室へ入ると、番組プロデューサの小坂がやって来た。
「風間さん、はじめまして。今日は楽しみにしていたんですよ。あの子が噂のレイちゃんですね。うん、なかなか雰囲気があっていいじゃないですか。さっき、ダイさんから聞いたんですが、一発目からオリジナルで行くんですって?
還暦近いオールドバンドと、十六歳の盲目天才少女シンガー!いいっすね。じゃあ、宜しく。期待してますから」
バカヤロー、彼女の歳は十七だ……
と、奴に訂正する間もなく、小坂は一人で勝手に喋って勝手に出て行った。
プロデューサと名が付く奴は、どうしてこうも似たような人種ばかりなんだ。
私には向きそうもない仕事だ。
収録スタジオへ行く。さあ、リハーサルだ。
那津子がスタジオの奥で私達に拳を握って見せた。
「レイ、那津子がガッツポーズをかましているぞ」
「なっちゃんが!?」
「ああ」
「じゃあ、期待に応えなきゃね」
「レイなら心配ないさ。いつでもみんなの期待に応えている。俺達年寄りの方が心配だ」
ADがスタンバイお願いしますと言って来た。
レイの車椅子を押し、スタジオの中央にセットされた狭いステージへと向う。
本番だと正面に百人程の観客が座り、一番前に審査員が五人陣取る。いずれも作曲家や作詞家、音楽プロデューサ等の業界関係者だ。そいつらが生まれる前から私達は音楽で飯を食って来た。
ケツの青い理屈ばかりの頭でっかちをノックアウトさせたら、今夜は深海魚で盛大にパーティーをやってやる。