新しい歌
私は珍しく興奮していた。本番ならば普通にそういう事もあるが、リハーサルの段階から気持ちが高ぶるなどというのは、デビューステージ以来かも知れない。
観客席には、私達と本選出場を競うシンガーやバンドの面々が、ライバルの実力を確かめようとステージに視線を送っていた。
「レイ、客席に座っている連中が腰を抜かす位な、ご機嫌なやつを派手にかましてやれ」
「ようすけもね」
「任せろ。さあ、楽しもうか」
ADの合図に頷き、オケのイントロが流れるのを待った。
私達がスタジオに姿を見せた時、そこに居合わせた者の誰もが、例外無く好奇な眼差しを無遠慮に送って来た。
盲目で車椅子に乗った男の子のような少女と、今にもぎっくり腰で動けなくなるんじゃないかと思われそうな年寄りバンド。
好奇な目で見られない方がおかしい。
それを全部まとめてひっくり返してやる!
シンもツカも、二十歳頃のあの棘だらけの尖った感情を思い出し、それを自分がこれから出す音に込めてやるという目をしていた。
リハーサルもくそもない。
俺達には、全てが本番なんだ!
イントロと同時に、レイのピアノが心地良い音を出し始めた。
レイ&ロンリーハーツのファーストセッション……
レイは気持ち良さそうに、そして心から楽しそうに、
『ディープ ハート』を歌った。