新しい歌

 私の危惧するところを那津子も感じていたようだ。だからこそ、こうして私達に助言を求めるべく相談したいと言って来たのだろう。

「一番初めに俺が言った事を覚えているか?レイが世間に注目されればされる程、面白おかしく取り上げる連中が群がって来る。世間は、マスコミに映し出された姿でしか見ない。勿論、全部という訳じゃないけどね。音楽だけで純粋に見て貰えればいいが」

「そうじゃない場合の方が多い……」

 心也が私の言葉に頷きながら後を繋いだ。

 肝心のレイは、自分も何か言いたくてうずうずしているのが、落ち着かない様子から見て取れた。

「レイの音楽そのものをマスコミが伝えてくれるのなら、それは喜ばしい事だ。だが、取り上げる切り口は、目が見えない、歩けない、この二つが必ず付き纏う。俺達は、純粋に音楽のみで勝負したい」

「心也の言う通りだ。那津子、君のところにはどういった内容の話として来ているんだ?」

「ドキュメントの方は、本選までを密着取材して、それを特別番組の枠で放送させてくれという事なの。その中には、サムタイムでのライブとか、日常の生活とかが入るのだけど、施設側は比較的この話に寛容なの。レイちゃんの事がきっかけになって、もっと世間に障がい者の事を知って貰えるのではと考えているみたい」

「余りいい気分じゃないな。まるでレイが広告塔扱いだ」

「貴方それは言い過ぎよ。施設側にしてみても何かのきっかけが欲しいの。そうすれば、卒園した子達を受け入れてくれる企業とかも、現われるかも知れないじゃない」

「じゃあ君はドキュメントの話を受け入れる方に賛成なんだね?」

「そう単純に割り切れない気持ちがあるのも確か」

 私はレイに尋ねた。



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