新しい歌
撮影中のレイは意識してか、そういう態度を露にはしないが、私達だけの時になると感情を剥き出しにするようになった。
自分でその苛立ちを制御できない事も、彼女にとっては苛立ちの原因の一つになっていたようだ。
尤も、そうと知ったのは暫く後の事だった。
那津子が泣きながら私に電話を掛けて来たのは、それから数日後の事であった。
(あの子が、私と一緒に居たくないって……)
そう言って泣き続けるばかりの那津子は、その夜から実家の逗子へ帰った。
翌日、愛光園から私に電話が入り、至急こちらに来てくれないかと言って来た。
特に仕事があった訳ではなかったから、私は久し振りに電車に揺られて久里浜へと向った。
出迎えた職員に、いったいどういう事かと尋ねると、はっきりとした答えが返って来なかった。
「私達にもよく判らないのです。とにかく、風間さんを呼んでくれと言うばかりで、授業どころか食事すら取りに来ないんです。那津子さんとの事があって、いろいろと情緒不安定になっているのだとは思うのですが……」
その那津子と、いったいどういう諍いがあったのかも、当事者である二人が一切を語らないものだから、尚の事困惑している様子であった。
私にしても、那津子から理由らしき事を何も聞かされていない。
とにかく、レイに会わなければならない。本選の収録も、来週に迫って来ている。
彼女の精神状態が不安定のままでは、グランプリどころか出場すら危うい。
この時私は、まだ事態を然程重く考えてはいなかった。四ヶ月前、やはりレイはこのような状態になったが、その後問題なくやってこれた。だから今回も大丈夫だと。
が、本当はその四ヶ月前から、レイは立ち直っていなかった。そう見せていただけだったのだ。