新しい歌
施設の職員に断り、私はレイと二人だけで話させてくれと言った。
もとよりそのつもりで私に来て貰った職員は、
「せめて食事だけでも取るようにと言って下さい」
と言った。
彼女の部屋の前に立つ。少しばかり緊張し、あの夜の事を思い出した。
「レイ、俺だ。起きているか?」
二度ノックをし、声を掛けた。
返事が無い。
もう一度ノックをし、もう少し声を大きくして、
「俺に会いたいって言ってたんだろ。来たぞ。レイ、開けるよ」
ノブに手を掛けた。
回らない。
中からレイがノブを握り締めているのが、気配で判った。
「レイ、そこに居るんだろ。聞こえているのなら返事をしてくれ。俺を呼んだのはお前じゃないか」
(……ようすけ一人か?)
「ああ。俺一人だよ」
(嘘つかない?)
「どうして俺が嘘をつかなきゃいけない。信じられないなら、俺はこのまま帰るぞ」
(待って!)
内側に少しだけ開けられた隙間から、レイの悲しげな顔が覗いた。