新しい歌
「中に入ってもいいか?」
レイは無言のまま、自分で車椅子をベッドの方まで移動させた。
目が見えない彼女を思って、車椅子に手を掛けると、
「大丈夫、一人で出来るよ。見えなくても、何処に何があるか判っているから」
そう言ってレイはベッドに車椅子を寄せ、上半身をベッドに投げ出した。
そのまま腕と上体の力だけで這い上がろうとする彼女を手伝おうとして、私はレイの腰に手を回し、ベッドに持ち上げようとした。
その瞬間、私に背中を向けていたレイの身体が、クルリと正面を向き、両腕がきつく私の身体を掴んだ。
彼女の身体を支えようとしていた私は、バランスを崩してしまい、レイを抱いた状態でベッドに倒れ込んでしまった。
レイの息遣いが、彼女の体温となって私の胸の辺りに広がった。
レイは子供がしがみ付くような格好で、私の胸の中に顔を埋めた。
急激に早まった心臓の鼓動を彼女に気付かれないかと、私は必死になって冷静さを装う為に、とにかく話し掛けた。
「どうしたレイ。まるで赤ん坊みたいだな」
「……」
「もうこうやって甘える歳でもないだろ」
「なんで……」
「ん?どうした……」
「なんでそういう言い方なの……。それじゃパパみたいじゃん」
レイの腕から、ゆっくりと力が抜けて行った。