新しい歌
リハーサルの音合わせでは、さすがのレイも緊張からか、いつもより声が伸びていなかった。控え室に戻ると、レイを撮影しているテレビ局のスタッフと浅倉が何か揉めていた。
私がどうしたと尋ねると、
「こいつら、ここに置いてあった荷物を断りも無しに、撮影に邪魔だからって勝手にどかしたんすよ。たく、いい加減にしやがれってんだ」
普段、細かい事には殆ど無頓着な浅倉なのに、今日に限っては神経がピリピリしているようだ。
そういったムードがレイに伝染してはいけないと思ってか、心也が珍しくジョークを連発している。が、残念な事に、音楽のセンスは売る程ある心也だが、ジョークのセンスは叩き売りにしても売れ残る。笑えなさ過ぎて薄ら寒くなってしまう。ツカも表情を強張らせ、益々顔が深海魚になっていた。
私は……やはり皆と同様に緊張しているせいか、脳みそが酸素不足になってしまった。立て続けに生欠伸をしたものだから、那津子が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「俺がこんなに緊張しているなんて、いつ以来だろう」
「私が知っている限りだと、父に結婚の申し込みをしに来た時以来だと思うけど」
「そういえば、あの時もやたらと欠伸が出そうになって、親父さんが、仕事柄夜遅くまで大変だね、なんて勘違いされたっけ」
「そうそう、そんな事言ってた……。ねえ、お願いがあるの」
「こういう場面でのお願いは、大概グランプリを取って、になるんだよな」
「映画ならね。そうじゃなくて、忘れ物を頂戴」
「……忘れてはいなかったさ」
「じゃあ、知っててくれなかったの?ひどい人って、今更言っても仕方ないか」
「そういう男なんだ」
「どうして貴方みたいな男に、大切な初恋をしちゃうんだろ……」
「レイ……の事か?」
「陽介のばか……」
那津子の言い方がレイにそっくりだった。
「ばかは言い過ぎだろ」
「あの子だけじゃないんだぞ、初恋の相手が陽介だったのは……」
私がちょっと驚いたような表情をすると、那津子はしてやったりという目をした。
「シンさん、そのギャグ寒すぎ。笑えないから。ぼく、凍えちゃうよ」
レイの屈託の無い声が控え室に響く。よし、大丈夫だ。浅倉が、始まったみたいですよと言った。
私がどうしたと尋ねると、
「こいつら、ここに置いてあった荷物を断りも無しに、撮影に邪魔だからって勝手にどかしたんすよ。たく、いい加減にしやがれってんだ」
普段、細かい事には殆ど無頓着な浅倉なのに、今日に限っては神経がピリピリしているようだ。
そういったムードがレイに伝染してはいけないと思ってか、心也が珍しくジョークを連発している。が、残念な事に、音楽のセンスは売る程ある心也だが、ジョークのセンスは叩き売りにしても売れ残る。笑えなさ過ぎて薄ら寒くなってしまう。ツカも表情を強張らせ、益々顔が深海魚になっていた。
私は……やはり皆と同様に緊張しているせいか、脳みそが酸素不足になってしまった。立て続けに生欠伸をしたものだから、那津子が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「俺がこんなに緊張しているなんて、いつ以来だろう」
「私が知っている限りだと、父に結婚の申し込みをしに来た時以来だと思うけど」
「そういえば、あの時もやたらと欠伸が出そうになって、親父さんが、仕事柄夜遅くまで大変だね、なんて勘違いされたっけ」
「そうそう、そんな事言ってた……。ねえ、お願いがあるの」
「こういう場面でのお願いは、大概グランプリを取って、になるんだよな」
「映画ならね。そうじゃなくて、忘れ物を頂戴」
「……忘れてはいなかったさ」
「じゃあ、知っててくれなかったの?ひどい人って、今更言っても仕方ないか」
「そういう男なんだ」
「どうして貴方みたいな男に、大切な初恋をしちゃうんだろ……」
「レイ……の事か?」
「陽介のばか……」
那津子の言い方がレイにそっくりだった。
「ばかは言い過ぎだろ」
「あの子だけじゃないんだぞ、初恋の相手が陽介だったのは……」
私がちょっと驚いたような表情をすると、那津子はしてやったりという目をした。
「シンさん、そのギャグ寒すぎ。笑えないから。ぼく、凍えちゃうよ」
レイの屈託の無い声が控え室に響く。よし、大丈夫だ。浅倉が、始まったみたいですよと言った。