新しい歌
深海魚が右腕を高々と突き上げた。
心也は、初めて出会った、悪がき当時に戻ったかのような顔をし、得意気に観客席を見下ろした。
私はレイの傍に寄り、
「最後……生まれたな。しかし、本番でアドリブかますとは、呆れた奴だ」
「……」
レイの声がよく聞き取れなかった。それが、観客席からの拍手と歓声のせいだと気付いた。
スタッフ達に促され、私達は控え室への通路を歩いた。
なんとも言えない充足感。
それぞれが、己の身体に今ある気持ちをどう言い表して良いのか判らなかった。満ち足りた無言、とでも言うのだろうか。
向うから八番目の連中が歩いて来る。
「みんな、楽しんじゃって!」
レイが彼等に声を掛けた。
その彼等が見せたピースサインを私がレイの代わりにしっかりと目に焼き付けた。
「レイ、さっきステージでなんて言ったんだ?」
「二度は言えない」
そう言ってレイは、通路で私達を待っていた那津子の気配を感じ、
「ヤッホー!」
と叫び、車椅子ごと抱きつきに行った。
浅倉がこっちを見て、目を潤ませている。
やめろ、お前まさか……
奴のメタボな身体が、思い切り私を抱きすくめようとした。