新しい歌
そういう視点から耳を傾けてみると、玲の低音はジャニス・ジョブリンの声に近い感じがした。
声質というよりも、伝え方と言った方がいいかも知れない。
無理にシャウトしない分、掠れた低音も聴き苦しく無い。心地良い。
切々と……そう、切々とだ。
玲が訴え掛けている様は、ジャニスの雄叫びと同質のソウルがあった。
中音部分は、誰にも似ていない。
特徴的なビブラート。
アドリブなのか、時折、音程がフラットしたりするのだが、その外し具合が絶妙に聴こえて来る。もう、こうなると稀有な天性とでしか言い表せない。
高音部に入ると一転する。
それまでは幾らか掠れたような味わいがあったのが、嘘のように澄み切ったものになり、何処までも伸びて行く。
どの音域からファルセットになったのか判らない位で、全ての音域を地声で歌っているのかとさえ思ってしまう程だ。
ブレスの音までもが、玲の場合はメロディの一部になっている。
初めてマイケル・ジャクソンを聴いた時の感覚に近い。
傍らの浅倉はと見ると、殆ど瞬きもせず、最初から最後まで微動だにしなかった。
奴がそういう姿で聴き惚れているところを、私は見た事が無かった。