新しい歌
「お巡りさん、規則だか何だか知りませんが、この子が歌っていた事で、何処からか苦情でもあったんですか?」
突然現われた中年過ぎの男を、年嵩の警官は何者だというような表情で睨んだ。
「特に苦情があった訳じゃありませんが、この道は幅が狭く、これだけの人が集まってしまうと他の通行人の迷惑になってしまいますから」
決まり切った言葉を聞かされ、私の気持ちは更に怒りのような感情に変わった。
「みなさん!ここまでこの子の歌を聴いていて、迷惑だと感じましたか!」
何も考えずに、自然と言葉が出ていた。
百人近い聴衆は、全員が声を揃えて、
「歌わせてやれ!」
と叫んだ。
「どうです。この声、お巡りさんにも聞こえましたよね」
警官は苦虫を噛み潰したような表情をし、
「駄目なものは駄目なんです。私個人は、こういう、障がいを持ちながらも頑張っていらっしゃる方を応援したい気持ちもありますが、立場上、そうも行かないのです」
「職務に忠実なのは、市民を守ってくれる警官として、私達もありがたいとは思いますけど。じゃあ、こうしませんか。あと一曲。せめて、きちんと最後の曲を歌わせて上げて、集まった人達にありがとうを言わせて上げて下さい」
「お願いします!」
じっと成り行きを見ていた浅倉と那津子も、一緒になって頭を下げた。