新しい歌
漸く人の波が動き出した。
那津子はと見ると、玲のCDを買い求めようとする人達の応対に大童になっていた。
その那津子と視線が合った。
「二人とも、見ているだけじゃなく手伝って貰えると助かるんだけど」
浅倉が慌てて那津子の傍に行き、手伝い始めた。
二人がCDを売っている間、私は器材の片付けをする事にした。
その時、私は初めて玲に言葉を掛けた。
最初に掛けた言葉は、今になって思うと、余りにも間の抜けたものであった。
「君、歳は幾つ?」
「ぼく?いきなりレディに歳を尋ねるなんて、おじさんエチケットがなってないよ」
「レディ?」
私達の会話を聞いていた那津子が、
「貴方まで勘違いをして。玲ちゃんは花も恥らう乙女よ。でも、自分の事を、ぼく、なんて言ったりするから誤解されちゃうのかも」
私は慌てて玲に謝った。
彼女は嬉しそうに笑い転げ、
「おじさん、なっちゃんの旦那さんでしょ?」
と、私の方に身体を少しばかり捻り、言って来た。