新しい歌
【香坂 玲】
器材の片付けが終わると、那津子はキーボードケースを玲の膝の上に乗せ、マイクやアンプの入った大きなバックを担ごうとした。
「まさかその荷物、全部一人で運んでここまで来たのか?」
「近くの駐車場に車を停めてあるの。幾らなんでも、この格好で電車はきついもの」
私は那津子の肩からバックを取り、背負った。それを見ていた浅倉も、玲の膝からキーボードケースを持ち上げた。
「げっ、結構重いじゃん」
浅倉はふらつきながら肩に担いだ。
「やっぱり力仕事は男の人に限るわね」
「お前、最初からこういう魂胆だったんだろ」
「多少はね」
兄と妹のやり取り。別段、私自身がそうしているつもりは無いのだが、二人の間に入り込めないものを感じた。
夫婦であったのにも関わらず、それ以前の那津子との関係の方が、私達はずっと良好に過ごせていたと思う。
自然と私は玲の車椅子に手を掛け、押していた。
玲は、ほんのちょっとした空気の変化にも敏感に反応した。
「今、風間さんが右側を持って押しているんだよね」
「押し方で違いが判るのか?」
「うん。伝わって来る力が違うもん」
そういえば、以前テレビか何かで、障がいを持った人間程、他の眠っていた器官や感性が研ぎ澄まされて行くと言っていた。