新しい歌

「でもね、逆だったの」

「逆?」

「そう。私の方がこの子達に力を貰っているし、毎日勇気付けられているのよ。この子達を可哀そうだとか、力を貸して上げたいなんて思う事は、健常者の思い上がりなの」

「何だか、俺の知らない那津子を見ている感じだな」

「とにかく、この子達と一緒に何かをしたいっていう気持ちになって」

「それで路上ライブを?」

「最初は、老人ホームとかに、施設の他の子と一緒に行って慰問とかしていたの。ある老人ホームでなんだけど、この子の歌を聴いて是非テープかCDを売ってくれないかって言われて、それを聞いた施設の人も、その売り上げでいろんな教材が揃えられるかも知れないという流れになって」

「それが今日の路上ライブになったのか」

「そう。今日がこの子のデビューなんだけどね」

「という事はだよ、俺がCDの売り上げに協力した分のバイト代は?」

「ありません。寧ろ、兄さんには百枚位買って欲しいんだけど」

「百枚、二十万かあ」

「きれいなお姉ちゃんの店に行くのを一、二回我慢すれば大丈夫だよ」

「フ、フーさん、何もこんなとこで言わなくてもいいのに。たのんますよ」

 おどける浅倉に、玲が、

「ねえ、きれいなお姉ちゃんのお店ってどういうとこ?」

 と、もうすぐ十七歳になる少女とは思えない程のあどけなさで聞いた。


< 32 / 133 >

この作品をシェア

pagetop