新しい歌
「どうだろう、本腰を入れてこの子をプロデュースする気はないか?」
私は、思い切って浅倉に尋ねてみた。
「那津子も、そういう気持ちがあったから、兄貴に来ないかって話したんだろ?」
「うん。打算抜きで、って言ったら嘘になるから正直に言うけれど、この子が居る施設には、予算が幾らあっても欲しい位なの。自治体から交付金が出ていると言っても、予算内だとこの子達に満足な事をして上げられないのが現実。働いている人達のお給料だって、自治体と国から定められた予算でしか払えない状態。ボランティアで来てくれている人が居なかったら、職員のお休みすら取れないのよ。だから、もし玲ちゃんの歌を聴いて、一枚でもCDを買おうと思ってくれる人が現われれば、この子に続く新たな才能の発掘だって可能になるのよ。うちの施設以外にも、助けを求めている子は沢山いるし」
「浅倉、どうだ?」
いつに無く真剣な表情で考え込んでいた浅倉は、
「一つ聞くけど、もし、俺や業界が玲ちゃんに目を付けて売り出そうとするよな。そうなった時の事をお前は考えたか?」
「そうなった時?」
「そうだ。いいか、玲ちゃんを見て、一般大衆はどう思う。マスコミの反応は?フーさんなら判るだろ」
浅倉の言わんとする事が、私にも判った。そして、表情を曇らせた那津子も。