新しい歌
「俺達が居る業界は、きれいな水でしか生きれない魚では泳げない所なんだ。その事は、お前も俺を見て来ているから判るだろうし、現実に、フーさんの女房になってみて理解している筈だ。ええと、ちょっときつい言い方をするけれど、玲ちゃん、怒らないで聞いて欲しいんだ」
「うん」
「障がい者という事で、間違いなく君は注目を集めるだろう。これが、はっきり言って然程、歌の上手くない子だったらどうか。
一部の似非慈善家なら、自己満足の為に手を叩くかも知れない。しかし、君は有り余る才能を感じさせる。その辺のアーティスト気取りなんか裸足で逃げ出すさ。
プロデュースのやり方にもよるが、金を掛ければ一気にドッカ-ン。人気は爆発。富と名声は君のものだ。
けどね、金の臭いに群がる亡者がうじゃうじゃ居るんだ。それにマスコミ。ちょっとした事でも記事にする。というか、デッチ上げる事もするのがマスコミだ。感動的に君の事を取り上げるだろうが、真実をそこに映し出してくれるかと言うと、奴らはそこまで甘くない。そういう世界に飛び込めるかい?」
普段、滅多に見せる事が無い姿に、浅倉の真実を垣間見れた気がした。
「難しい事はよく判らないけれど、ぼくは歌えればそれでいいんだ。それでね、ぼくの歌を聴いてくれた人が、良かったよって言ってくれたら、ぼくは嬉しいんだ」
「みんな、この業界に入ったばかりの頃はそう思うんだ。でも、ずっとその気持ちを持ち続けて行く事は、すごく大変な事なんだぜ」
「大変な事?今のぼく以上に大変な事ってなあに?」
浅倉は、返す言葉を失っていた。