新しい歌
沈黙を破ったのは那津子だった。
「私、少しばかり舞い上がっていたのかも。兄さんに言われてみて、気付いたわ」
「待てよ那津子。君がこの子を見て揺り動かされた気持ちって、そんな軽いもんだったのか?障がい者が白眼視されるのを覚悟していたんじゃなかったのか。興味本位で見られる、安っぽい同情ばかりで、心の中では優越感に浸る奴らに晒される覚悟を持っていたんじゃなかったのか。持っていたからこそ、今日、この子をあの場所に連れて来たんだろ?」
私は、言い終わってから後悔した。何もここまで打ち据えるような事を言わなくてもよかったのにと。
「二人とも、喧嘩しないで。ぼくが歌う事で喧嘩になるのなら、ぼくは……」
玲は、その先の言葉を呑み込んでしまった。
「ごめん。言い過ぎた」
那津子が無言で首を振る。玲の頭に手を伸ばし、那津子はゆっくりと何度もさすった。玲の顔が、那津子の腕の中に納まり、嗚咽が私達を覆った。
「フーさん、曲がりなりにもこの業界で生きている者がですよ、玲ちゃん程の逸材を野に埋めさせてしまっていいんすかね」
「お前、さっきと随分トーンが違うじゃないか」
「いきなり夢みたいな事を言うよりも、現実を知って貰って、彼女に覚悟があるかどうかを知りたかったんですよ」
「その覚悟は、彼女を後押しする俺達の方が必要だぜ。そうだろ、那津子」
「貴方の言う通りね。この子には、純粋に歌いたいっていう気持ちしかないもの。考えてみれば、この子にはそれで充分なのよね」
「玲ちゃんを守る覚悟、だな」
私の言葉に二人とも頷いた。