新しい歌
浅倉大二郎は、私達のバンドのボウヤ(付き人)だった。高校生の時に家出までして、押し掛けボウヤになったアホだ。
「ロンリーハーツは、僕にとって世界一のバンドです。荷物持ちでも何でもします!」
そう言って三日三晩、私達が所属していた当時の事務所にやって来た。
ならば試しに何か楽器をやってみろと当時の事務所の社長が言うと、
「楽器はこれから覚えます」
と、事も無げに言い放った。その言い様が余りにも堂々としていたものだから、私達も面白い奴だと気に入って、以来、付き合いが続いている。
当時を思えば、それぞれの変わり様が、人生の機微を思わせて何だか面白い。と言えば御幣があるが、浅倉が世界一だと言ってくれたロンリーハーツは、とっくの昔に解散し、メンバーはそれぞれの生き方をしている。
ギターとボーカルを担当していた私は、バンドの解散後、一時はソロで活動して行くという話もあったが、結局は所属していた事務所が潰れてうやむやになり、今ではスタジオミュージシャンの真似事で糊口をしのいでいる。
ベースをやっていた佐藤博史は、酒に溺れ、五十になる前に肝臓癌であの世へ一足先に逝ってしまった。
ドラムの深海魚は、きっぱりとこの業界から足を洗い、目の前に居る。キーボードの伏木心也が、メンバーの中では一番その後の人生を上手く生きれているかも知れない。アレンジャーとして、その才能を開花させ、仕事の依頼は今でも引く手数多のようだ。
ある意味、私達のボウヤだった浅倉も、その後の人生を上手く生きれている口に入るかも知れない。
音楽プロデューサーとして数多くのアーティストを世に出し、ヒット曲も生み出して来た。最近のJ-POPアーティストからアイドル、時には演歌歌手のプロデュースまでこなす。
その浅倉がぜえぜえと息を切らし、騒々しい雰囲気を撒き散らせながら店に入って来た。