新しい歌

「あの子に相応しい曲を書きたい。片手間に書くのなら、今すぐにでも何曲だって書けるが、そういうのではなく、あの子にしか歌えない曲を書きたいんだ。その為にも、香坂玲を知りたい。生い立ち、日頃思っている事、特に、自分の境遇をどう捉えているかとか」

 那津子に向ってここまで真剣に語ったのは、いつ以来だろう。ひょっとしたら、この夜が初めてだったかも知れない。

 熱に浮かされたように語る私を見つめながら、那津子は母親のような眼差しをくれた。

「私にしても、玲ちゃんの全てを知っている訳じゃないわ。だから、私から聞き出すよりも、あの子から直接話を聞くなり、感じ取った方がいいんじゃない?」

「勿論そうする。その前に、予備知識という訳じゃないが、ある程度は知って置きたいんだ。君の知っている範囲で構わない。それから先は、あの子と接して行くうちに、何かが生まれて来ると思う。あの子には、そう感じさせてくれるものがあるから」

 那津子はグラスの中身を飲み干し、ふうと息を吐き出した。

 端正な面立ちに、ほんのりと赤みが浮かび上がった。幾分、潤んだ瞳が、ガラスに反射した照明できらりと輝いた。

「お代わり、してもいい?」

「電話で話したろ。今夜は財布がリッチだって」

 二杯目を飲み干すまでの間、彼女は話し続けた。



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