新しい歌
「あれえ!?いつの間に玲ちゃん来たの?」
「浅倉さん、この前はどうも」
散々手を焼かせながらもなかなか起きなかった奴が、玲の声を聞いた途端に目を覚ました。
那津子が玲の車椅子をピアノの前まで押し、深海魚がマイクの位置を合わせるのを手伝った。
準備が出来たので、私達がモニタールームへ入ろうとすると、浅倉がギターケースを持って心也に差し出した。
「それ、あいつのじゃないか……」
何年経っても忘れない、見覚えのあるギターケース。
三十数年前から一人の男に愛され続けたベースギターが、その中に眠っている筈だ。
「ヒロシさんのベース……。シンさん、ベース弾けましたよね。玲ちゃんはピアノだから。あっ、フーさんにはスタジオに予備のフェンダーがありますから。で、マスター、じゃなかった。今日はツカさんて昔の呼び名に直します。ドラム、叩いて下さい」
まだ朝方の酒が抜けていない浅倉にしては、いつになくしゃきっとした口調だった。彼が敏腕プロデューサだという事をすっかり忘れていた。
「玲ちゃんのバックにロンリーハーツ、いいアイデアでしょ」
「風間とシンは今でも現役だが、俺は引退して何年も経ってんだぜ。外野の球拾いにもならないぞ」
深海魚が呆れ顔で言った。