新しい歌
「何言ってんすか、ツカさんほどのドラマーが。スティックより重いウイスキーのボトルを毎晩持っているんですから、全然問題無いっしょ。往年のスティック捌き、錆付いたなんて言わないで下さいよ」
「お前、もう少しマシなおだて方覚えろ」
そう言いながらも、深海魚は満更でもない顔でドラムセットへと歩いた。
心也は、既にベースのチューニングを始めている。
玲の様子はと見ると、やけに嬉しそうに身体を揺らしていた。
那津子が私を見て、
「何だかあの頃にタイムスリップしたみたいね」
と言い、目を細めた。
「これでヒロシが居たらな」
「那津子、何だったらあの頃みたいに、パンツ丸見えの短いスカート穿いて、ランドセル背負うか?」
「兄さんはタイムスリップする必要が無い位、昔通りね」
「浅倉、俺達にここまでさせて、まさかそれで終わりって訳じゃないんだろ?他に手品の種があるなら、先にばらせよ」
「さすがフーさん、しっかりお見通しですね。デモ作っちゃおうかと思ってます。そういう事だから、那津子は俺とモニタールームでPAのヘルプだ」
ここまでやるとは、さすがに思っていなかった。
私は、スタジオに置いてあった予備のギターを持ち、玲の傍らでスタンバイした。