新しい歌

 玲は目が見えないから、譜面を持ち歩かないと那津子から聞いていた。一応、点字の譜面もあるし、玲自身、点字で楽譜を起こせる。だが、玲は一度曲を覚えると絶対に忘れないし、初めての曲も、聴いている傍から伴奏を付けられるから、必要ないらしい。

 玲は曲を何にするか考えながらも、絶えず音を出していた。聴いた事があるメロディを弾いたかと思えば、初めて耳にするメロディもあった。

 暫くその状態が続き、そのうちハミングをし始めた。最初は、低く聴き取れない程のハミングだったのが、少しずつ明瞭な音になり、聴き覚えのあるメロディになった。

 私達は自然に音を出し、玲のハミングに合わせていた。

 身体に染み付いた懐かしいメロディ。忘れようとしても忘れられない曲。

 それは、私達の最初のオリジナル曲だった。

 原曲よりも幾らかスローな歌い方。

 特徴のある玲の声。

 時折り、歌い方にフェイクを入れ、何だかブルースっぽいミディアムテンポのバラードになっていた。

 驚いた。

 私が書いた曲を玲が知っていたとは。

 後になって冷静に考えてみれば、納得出来る事だった。

 那津子は、ロンリーハーツの全レコードを持っていたのだから。きっと、玲に私達のレコードを何度か聴かせたのだろう。

 三十数年前の曲。決して、出来の良かった曲ではなかった。それが玲の手に掛かると、魔法を掛けられたシンデレラのように、絶世の美女に生まれ変わっていた。



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