新しい歌

「さて、一息ついたんだから、言いたい事をスパっと言ってくれないか」

 なかなか話を切り出そうとしない浅倉に業を煮やした私に、彼はそれまでのくだけた調子を改めた。

「たまには那津子のところに、顔でも出したらどうです」

「なんだよ、今日の拙い仕事ぶりを注意する為に誘ったんじゃないのか」

「あれで出来が悪いなんて思っていたりしたら、とてもじゃありませんけど僕の仕事は勤まりませんよ。プロデューサーなんて、程々のところで妥協して行くのが仕事みたいなものですから」

「慰められているのか、詰られているのか判らないな」

「それより、もう随分と那津子に会ってないんでしょ」

 那津子……私の三番目の女房だった女であり、浅倉の妹だ。

 私はこれまで三度の結婚と離婚をしている。

 一番最初に結婚した相手は、ロンリーハーツが人気絶頂の頃に知り合った元アイドル歌手の忍田紀子。三年持たずに離婚した。理由は価値観の違い。という事になっているが、実際は自分でもよく判らない。

 二度目の相手は、小山内葉月という宝塚の女優。深海魚の恋女房が仲立ちしてくれた。一回目の結婚で、多少は自分の至らなさに思い当たる部分があったから、今度こそはという気持ちで結婚生活を送っていたつもりだったが、つもりは所詮何処まで行ってもつもりでしかならない。

 七年目の結婚記念日を待たずに別れた。だが、別れた後も彼女とは比較的良好な関係を今でも続けている。男と女という生臭さが消えてからの方が、お互い何の遠慮も無しに、相談相手として付き合えているから、男と女とは面白いものだ。

 そして、三度目の妻となった相手が、那津子だった。





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