新しい歌
純粋に音楽を楽しむ事の素晴らしさ……
忘れていた真っ直ぐな気持ち……
時間を忘れ、心は音と共に空間を移動していた。それは私だけではなく、ドラムを久しく叩いていなかった深海魚も、ヒロシの愛用のベースで力強い音を刻んでいた心也にしても同じだった。
テクニックなんかくそ食らえ!
好き……
ただそれだけで身を音のシャワーに委ねられた時代へ……
喉が潰れ、音を外しながらもシャウトし続けた時代へ……
新しい旋律と出逢い、五線譜の上に音符を躍らせたあの時代へ……
玲は、水先案内人のように、私達をそれぞれの時代へと誘ってくれた。
彼女の歌声に自分の声を被せる。玲の声に包まれながら歌うという事が、こんなにも心地良くなるものなのかと感じた。
終わりを迎えたくないとさえ思った。
さいっこう!
玲の真似をして、私達は雄叫びを何度も上げた。還暦を間近に控えている私達が……
ある瞬間、私は突如としてこれまで生み出した事の無いフレーズを弾いていた。
それが、玲と私の『新しい歌』の始まりだった。