新しい歌
隅々まで磨き上げられた廊下。内部は塵一つ見当たらない位に清潔だった。けれども、私にはきれい過ぎて、却って落ち着かない感じがした。
廊下を歩いている間、施設で生活している障がい者の何人かとすれ違った。那津子が声を掛けると、みんな曇りの無い笑顔を返して来る。
「彼女もあの子達と同じように施設内の学校に通っているのかい?」
「そうよ。玲ちゃんの場合は、高校教育の他にパソコンの技能習得もやっているけれど」
「パソコン?目が見えなくても出来るのか?」
「視覚障がい者用のソフトがちゃんとあるから。打ち込まれた文字を音声で教えてくれるのよ。ネットも出来るし、自分でブログだって出来るんだから。パソコンが使えれば、この先社会に出ても役立つでしょ」
「社会に出るって、就職とかか?」
「ええ。でも、実際には障がい者の雇用は殆ど無いのが現実。盲学校を出ても、やれる仕事の選択肢といったら、すごく限られているし。たまに事務系の仕事とかあっても、ほんの僅かなのよ。どの雇用主さんも、せめて目が見えてくれればって言うし、車椅子程度ならOKなんだけどなって。車椅子程度って言うのよ。程度って言葉を使われちゃうと、何だか悲しくなって来ちゃって……」
障がい者の自立。
玲と知り合うまでは、何一つとして障がい者達の実情を知らなかった。
いや、知ろうとしなかった。