新しい歌

「本当も何も、最初から俺の考えている事は、あれだけの才能をどうやったら世間に知って貰えるかだけさ」

「もう少し自分に欲を持っても良いのに」

「俺の歳位で欲の深い奴は悪党さ。好きな事を好き勝手やりながら、それでも飯が食えているんだ。それ以上の高望みは罪だよ」

「ふうん、そういうものなのかな。貴方らしいのか、らしくないのか、昔からよく判らないところがあったけど、でも……」

「でも、何だ?」

「何でも無い」

 話が自分の事になってくると、微妙な空気になってしまう。

 私は逃げるように矛先を変えた。

「それより、もう夏休みだろ?」

「玲ちゃんの事?」

「ああ」

「うん。盲学校の方はね」

「心也が彼女を交えて合宿しないかって言って来たんだ。期間は十日前後になると思うが、都合の良さそうな日にちを決めたいんだ」

「十日前後ねえ……」

「何だ、都合悪いのか?」

「リハビリがあるの」

「リハビリって、足のか?」

「そうよ。まるっきり動かせなくても、筋力の低下を防ぐ為のリハビリは必要なのよ」


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