新しい歌

「何日置きにやっているんだ?」

「週三回」

「今までも休まずにか?」

「うん。日によってメニューが違うから、一回に掛ける時間は短かったり長かったりとまちまちだけど。合宿となると、リハビリを休まなければならないでしょ。現実問題として厳しいかも」

 最初、心也から合宿の話が出た時、当然私は即座に賛成した。

 玲のレッスンを集中してやれるし、私達自身がそれを必要としていた。

 今の自分達ではバックアップするどころか、足手まといになってしまう可能性がある。

 話題性と昔の名前だけで『NEXT ONE』のグランプリは取れない。

 何か良い方法は無いかといろいろ考えてみた。

 長い期間スタジオを借り切り、玲に通って貰う……

 すぐにこの案は消えた。この時期、スタジオは何処もスケジュールが一杯だ。どのレコード会社も、秋から年末に掛けて発売するアルバムやシングルを製作する為に押さえている。

「ねえ、どうせだったら貴方達が久里浜に来ちゃえば?」

「通いでか?」

「泊まりで。そうよ、それがいいわ。食堂もあるし、音楽室には玲ちゃんが毎日弾いているピアノだってあるし。泊り込み用の部屋なら、空いている集会室や教室にマットと布団を持ち込んじゃえばいいんじゃない。夏休み中だから、多分使わせて貰えると思うわ。私から頼んでみる」

 那津子はそう言うや否や、携帯電話を取り出し、掛けようとした。

「おいおい、そう先走るなよ。まったく、そういうところは兄貴とそっくりだ」

「反対?」

「返す台詞まで一緒だ。反対な訳ないだろ」

 自然、二人は顔を見合わせて笑った。

 逗子の家にしょっちゅう顔を出していた頃は、いつもこうして那津子と笑い合っていたものだ。結婚してからの方が、こんな過ごし方を忘れてしまっていた。

< 75 / 133 >

この作品をシェア

pagetop