新しい歌
その頃、私はまだ二度目の妻である小山内葉月と、戸籍上は夫婦であった。
だが、お互いの合意の上で別居生活に入っていたから、気持ち的には既に離婚していたも同じであった。
正式な離婚をなかなかしなかった理由は、小山内葉月の仕事に関係していた。
その頃、彼女が出演していたCMのスポンサーの関係で、離婚というイメージダウンは避けてくれというのが、彼女の事務所の言い分であった。
別居生活は都合三年近くになり、私は晴れて離婚が成立すると、那津子にプロポーズした。
勿論、簡単にOKなどして貰えるとは思っていなかった。しかし、予想に反し、彼女から返って来た答えはOKだった。
それでも、私達は世間体も考えて、直ぐには結婚をしなかった。互いの部屋を行き来はしたが、浅倉の事や逗子に住む両親の事を考えて自重していた。
正式に離婚してから三年。私は、久し振りに浅倉の実家を訪ね、那津子との結婚を申し出た。
一番驚かれたのは大二郎の方で、両親などは揃って、
「この子は小さい頃から、風間さんのお嫁さんになるんだって言っていたのよ」
と、その日が来る事を予期していたかのように言った。
「それにしても、二人とも俺に一言も言ってくれないんだからなあ。それならそうと何故もっと前に言ってくれなかったんです」
事ある毎に浅倉は私を恨めしそうに見つめた。彼は、昔から自分が蚊帳の外にされるのが一番いやだという性格をしていた。寂しがり家なのかも知れない。
三度目の結婚だったから、そう派手に式を挙げる訳にも行かず、身内だけで済ませた。
その那津子とも、私は五年前に離婚した。