新しい歌
「じゃあ今からぼくはレイになるんだね?」
「歌う時はね」
「さいっこう!」
「さて、レイ・コウサカが生まれたのはいいが、肝心の風間の方はどんな塩梅なんだ」
心也が曲の事を言って来た。
「俺の身体の中では、それらしきものが浮かびつつある」
「そうか」
「レイ、もう一度歌ってみてくれないか」
「風間さんのリクエストなら何回でも歌うよ」
どうしてこの子はこういう事を照れずに言えるのだろう。
そんな事を考えているうちに、レイは再びピアノを弾き始めた。
最初の時よりも一つ一つの音に自信が溢れていた。
声も遥かに伸びやかで、味が出ている。歌う毎に自分の世界に曲を取り込んでいるのが判った。
私が聴かせたのは、レイ・チャールズのライブレコーディングのものだ。
原曲に比べ、歌い出しやサビの部分でアレンジした歌い方をしている。
一回目はその通りにコピーした歌い方だったのが、二度目の時は自分流の解釈の仕方で変えて来た。
生まれろ!出て来てくれ!
私は心の中で叫んでいた。