新しい歌
何かが浮かんで、何かが消える。一つの曲を作るのに、ここまで苦しんだのは初めてだった。
その時、ふと以前那津子と約束していた事を思い出した。
レイが詩を書いている……
彼女が歌う歌。それは、彼女自身の言葉でなければいけない。香坂玲の心の底は、本人でしか判らない。こちらの思い付きや、上辺だけ見て判ったふりをして書き上げたものは、彼女の歌にはならない。
私はそう考えた。それを忘れていた。
思い立つと居ても立ってもいられなかった。直ぐさま彼女の部屋へ行った。
既に夜の十一時を回っていたとは気付いていなかったから、まさか彼女がベッドに入っていたなんて思わなかった。
ノックをして返事を待つのももどかしくドアを開けると、
「キャアー、エッチ!」
と悲鳴を上げられた。
「ご、ごめん。悪かった」
「いいよ」
彼女は毛布を身体に巻き付けたまま、ベッドの上で微笑んだ。
「風間さん、見た?」
「何を?」
「いい。いたいけな乙女を襲いに来たのじゃないとすれば……あっ、ぼくに子守唄でも歌って貰いたいとか?」
「それもいい考えだが、残念ながらちょっと違う。君の書いた詩を見せて貰おうかと思ってね」
「ぼくの詩を?」
「ああ。曲作りの参考にもなるし、いい詩があれば、そのままメロディを付けてもいいかなってね」
その言葉に彼女は照れたような表情を浮かべ、私から顔を隠すようにして毛布を被った。