新しい歌
いや、正確に言えば離婚届けを私が一方的に送り付けただけで、戸籍上は未だ夫婦だ。
浅倉も彼女の両親も、暫く互いに距離を取りながらもう一度やり直してみろと言い、以来、別居しながら時々会ったりしていた。それも、最近は遠退いている。
何故、私はまともに結婚生活を送れないのだろうか。当然、自分で考えた事は一度や二度では無い。理由が、毎度の事だが、自分でもはっきりとしないのだ。
無責任極まりないようだが、これまでの離婚でも、相手が嫌いになったとかでは無い。俗に言う性格の不一致とも違う。一度目は価値観の違いとかもあったが、それにしてもそれが直接の原因では無い。
ある日突然、急に自分の中に、
俺は、本当にこいつを必要としているのか?
という意識が芽生えてしまうのである。
単純に好きか嫌いかで言ったら、間違いなく好きだし、愛しいとも感じている。だが、もう一つしっくりと来ない自分が居る事も確かなのだ。
そういった事から、時には自己嫌悪に陥る事もある。
「この前、那津子がね、私はフーさんに甘え過ぎていたのかなって、言ってたんすよ」
「それは彼女の思い違いだよ。甘えていたのは俺の方さ」
「どっちにしても、たまには飯ぐらいは誘ってやってくださいよ。あいつはまだフーさんにほの字なんだから」
「無理だったんだよ。所詮、俺みたいな男は、まともな結婚生活なんて出来る柄じゃなかったんだ」
「そうかもね」
深海魚の女房がそう言って、私の空になったグラスを取り替えた。
「三杯目は、バーボンでいいの?」
「ああ」
新しいショットグラスに琥珀色の液体が注がれた。