新しい歌
 曲のアウトラインが出来、詞を玲と心也がメロディに合わせ易い言葉に直して行った。曲創りは、私が起こした譜面通りに心也がピアノを弾き、玲が書き直したばかりの歌詞を口ずさむ。

「レイ、“優しさってきらい”の“優しさって”の後に“言葉が”という歌詞を付け加えよう。後半部分とメリハリを付ける為にも、この方が歌い易いんじゃないか?」

「それから、“優しい人”も“優しいだけの人”の方がよりインパクトあるんじゃないかな?」

 レイがハミングしながら「うん、いい感じ」と、顔を綻ばせた。

 彼女は、自分の詩が歌になる事を喜ぶというよりも、驚きに近い感情で受け止めた。多分、多感でうつろい易い自分の感情が歌になる事に、多少の気恥ずかしさもあったのだろう。

「それから“だから だから だから”のあとは最初の“知ろうとしない”を受けて“知ってほしい”にしないか。対のフレーズになるようにそのあとの“ほんとのことば“の次に”そんな優しさだけほしい”でどうだろう?もっと、こう怒りみたいなものをメロディにぶつけるようにね。風間、ここんとこ、アレンジでは怒りとか憤りを表現する意味で、厚みを持たすけど、メロ的には寧ろ明るい感じを表現してくれないか」

「具体的にはどんな感じがいい?」

「レイの声質からいったら、キャロル・キングっぽくした方が合うかもしれない。少しカントリー・ロック調にコードを直してみたら?」

 さすが心也だ。奴の手に掛かれば、定食屋のランチが一流ホテルのディナーに化ける。レイは、こうして曲が出来て行くのを嬉しそうに見ていた。フレーズ毎にきちんとしたメロディになって行くのを懸命に覚えようとする。時には思い込みが激し過ぎて、私や心也から指摘を受けたりすると、その度に顔を紅潮させながら歌い直す。

「レイ、歌詞では“ほんと”にの所だけど、声を切らずにスラーで次の言葉に繋げるんだ。いいか、レイが思っている“ほんとう”のものをここに込めるんだ」

 頷くレイ。何度も同じ箇所を歌う。フラット気味なレイのビブラートが、寧ろいい味付けとなって歌詞に深みが付く。傍らでは、那津子が出来上がった音を点字用の譜面に直して行く。深海魚は、様々なビートでテンポを変えたりして、最適なものを探していた。収録まで残り僅か。それぞれの思いが一つの曲に重なりつつあった。

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