新しい歌

「ダイ、お前にしちゃまともなセンスだな」

「ツカさん、こう見えても音楽プロデューサだって事を忘れちゃ困りますよ」

「どうもお前を見ているとそうは思えなくてな。ボウヤの時のイメージしか浮かばん。“ディープハート”……その頭からどうやって引っ張り出して来たんだ?」

「ディープインパクトって馬がいたでしょ。すんげえ強くて、僕なんかも随分と稼がせて貰ったんですけどね。そっから頂きました。もろそのまんまじゃ能が無いから、心、つまりハートを付けたという訳です」

「ダイの事だからそんなところじゃないかとは思ったが……。いいか、風間やレイちゃんの前ではその話はオフレコにしとけ。そうだな、ディープパープルから頂いた位にしとけ」

 ひそひそ話しの出来ない奴らの会話が、こっちの耳に届いて来た。思わず苦笑いを浮かべる私。那津子は呆れ顔で兄貴の顔を見ている。

 レイが自分でピアノを弾きたいと言い出し、心也が彼女と場所を変わった。

「ようすけ、ここ教えて」

 今日初めて、私を名前で呼んだ。

 その言い方に、みんな微妙な反応を見せた。

 特に那津子の表情は、私が見ても怪訝そうだと判る。

 女は、何につけ敏感な生き物だ。

「いたいけな乙女にしちゃ口が悪いぞ」

 私の取ってつけたような言葉を無視するかのように、

「いいから、こっちに来て教えて」

 と、レイはピアノの鍵盤を鳴らしながら急かした。






< 93 / 133 >

この作品をシェア

pagetop