新しい歌
レイが私に教えてくれと言っている箇所は、サビの始まりである、
“ ねえ この声 この思い 君に届いているのなら 教えてほしいことがある”
の部分で、どうしても上手く歌えないんだという。
私がギターで伴奏を付けながら歌ってみる。
横でじっと耳を傾ける彼女の息遣いが、私に重く覆い被さって来るようだ。
「キーが合わないのなら、少し上げようか?」
「ううん。そのまんまで歌ってみる」
レイの中音部から高音部に掛けての魅力は、おそらく耳にした誰もが聴き惚れてしまうものだと思っている。それを私は意識してメロディにしたのだが、彼女の歌は充分にこちらの意図を体現してくれていた。
「もう一度歌ってみてくれ」
再度歌い直した。
確かに、声そのものの魅力は出ている。音程も狂っていない。
歌い終わったレイが私の言葉を待っている。
「もう一度。今度は最初から。レイ、練習と思うな。路上ライブを思い出してみろ。スタジオで、俺達と歌った時の事を思い出してみろ。いいか?」
無言で頷くレイ。
深く息を吸い込み、イントロを弾き始めた。